2006年の公益法人制度改革の中身が明らかに!
2005年12月13日

非営利法人総合研究所(NPO総研
主席研究員 福島 達也


政府が平成18年の通常国会提出を目指す公益法人制度改革関連法案の骨子が明らかになった。

現行の約25,500の社団法人・財団法人、約2000の中間法人に代わって創設する「非営利法人」は、平成19年度ではなく平成20年度中に導入と予想よりも若干遅れてスタートすることになった。新制度の下では非営利法人は法務局への登記だけで設立できるようになり、主務官庁の影響を排除できることから、「官僚の天下り防止」を一層進めることになる。

気になる税金のことだが、公益法人側が大反対していたにもかかわらず、残念ながら原則として一般企業並みに課税することになった。さらに、非課税扱いを受ける条件として、株式保有の原則禁止や、指定暴力団組員、処罰歴のある人を役員に置かないことなどを明記。

さらに、税の減免を受けるには、内閣府(特定地域で活動する法人は都道府県知事)に設置する民間有識者委員会から「公益非営利法人」の認定を受けることが必要となる。気になる認定の条件だが、(1)営利企業と競合する事業を行わない(2)公益事業にかかる事業費が全事業費と管理費の合計額の半分以上(3)同一親族が役員の一定割合を占めない(4)株式や必要以上の内部留保を保有しない(5)暴力団員や処罰歴のある役員を置かない▽資産や役員報酬を公表 と「公益性」の定義を一層厳しくした模様。

しかし、寄付金についての扱いはかなり改善される。寄付金をする側に課されていた税金は現在の財団法人より優遇することになり、財団形態の非営利法人はより寄付金を集めやすくなるであろう。アメリカ並みの寄付社会の幕開けと期待される。

現行の民法に規定された公益法人制度は、一部の収益事業を除いて原則非課税扱いとしている半面、主務官庁の許可がないと設立できないので、税金逃れに設立された法人や官僚の天下り先確保のためだけに使われる実体のない法人も存在することが問題視されていた。こうした問題も一気に解決できるであろう。

新しい非営利法人は、登記だけで設立できるのだが、監督はある程度の制限が設けられる。たとえば、設立後の事後チェックを厳しくし、休眠法人や問題を起こした法人の整理、または裁判所による解散命令の規定も設ける。その他、社員による代表訴訟制度も導入する。さらに、すべての非営利法人に毎年一回財務状況を公表する制度を導入するとともに、公益性を認定された非営利法人には、役員報酬の公表も義務付け、経営の透明性を確保することにしている。

新制度への移行だが、法律は平成18年の通常国会で成立するが、施行は平成20年度中となり、施行から5年間を移行期間とする模様。

【公益法人制度改革法案の骨子(要約)】

 ■一般的な非営利法人制度

  非営利法人は営利を目的としない社団、財団が対象▽準則主義(登記)で設立可能▽休眠法人の整理、裁判所による解散命令の制度を創設▽毎年1回財務状況を開示する制度を創設▽社員による代表訴訟制度の導入

 ■非営利法人の公益性(公益非営利法人)認定に関する制度

  公益性の有無は内閣府に設置する民間有識者委員会(特定地域で活動する法人は都道府県知事)が認定▽認定基準(1)営利企業と競合する事業を行わない(2)公益事業にかかる事業費が全事業費と管理費の合計額の半分以上(3)同一親族が役員の一定割合を占めない(4)株式や必要以上の内部留保を保有しない(5)暴力団員や処罰歴のある役員を置かない▽資産や役員報酬を公表

 ■新制度への移行

  平成20年度中に施行。施行から5年間を移行期間▽中間法人制度を廃止



新しい非営利法人税制の概要

・公益性が認められた非営利法人は、収益事業のみ課税

・公益性が認められなかった非営利法人は営利法人と同等に課税

・同窓会の会費など「共益性」のあるものは、公益性の有無に関わらず非課税

・収益事業(33業種)の範囲は実態を踏まえて拡大

・収益事業の税率(22%)と通常の法人税率(30%)との格差を縮小

・公益性が認められた非営利法人は、自動的に「寄付金優遇法人」とする

・所得税、個人住民税の寄付金控除を拡大



公益法人とその他の法人

1.公益法人等の現状

 ○公益法人(社団法人・財団法人)

1898年に施行された民法に定められた法人で、主務官庁の許可により設立され、設立後も主務官庁の監督を受ける。設立許可の要件は厳しく、官庁の裁量が強い。監督も透明性を欠く。そのかわり、@収益事業(33業種)以外は非課税、A金融収益課税も非課税、B収益事業への法人税は軽減税率を適用、C収益事業所得の20%までの寄付については損金算入が可能で、見なし寄付の制度があるなど、4つの税制優遇がある。また特定公益増進法人になる道がひらかれており、認定されると個人や法人の寄付金控除が可能。2005年4月現在全国に約26,000法人が存在する。

 ○特定非営利活動法人(NPO法人)

1998年に施行された特定非営利活動促進法(NPO法)に定められた法人で、所轄庁の認証により設立され、設立後も監督を受ける。ただし認証は形式要件の審査のみで裁量の働く余地は少なく、監督についても手続きが明確に定められている。情報公開も義務づけられており、透明性の非常に高い法人制度となっている。税制優遇については、@収益事業(33業種)以外非課税のみ。また認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)になる道が開かれており、認定されると個人や法人の寄付金控除が可能。2005年12月現在全国に約26,000法人が存在する。

 ○中間法人

2001年に施行された中間法人法に定められたもので、同窓会や同業者団体を対象とした法人格。準則主義すなわち官庁の関与なく公証人の定款認証のみで設立が可能(株式会社や有限会社の設立と同じ)。その代わり税制優遇はなく、寄付者への寄付金控除の仕組みもない。2005年12月現在全国に約2,000法人が存在する。

2.改革後の法人体系と税制

公益法人と中間法人は、一つの非営利法人(仮称)となり、準則主義すなわち官庁の関与なく公証人の定款認証のみで設立が可能になる(設立要件に基金の設置を検討)。当然許認可はなくなり、誰でも簡単に設立することができる。

 しかし、それではどの団体に公益性があるのか国民が判断できないので、非営利法人を2階建て(2区分)にして、民間有識者からなる第三者機関が認めた社会貢献性のある非営利法人については、登録制度を設けて2階に上げ、一定の寄付金優遇法人として扱う。さらに、収益事業以外の活動は非課税とする予定だが、現在の公益法人並みの税制優遇は低下する見込み。

3.改革後の税制

公益性のない一般の非営利法人については、ほとんど税制優遇はなく、一般の会社法人と同じような税体系となる。ただし、もっぱら会費のみで運営しているような共益団体は、その会費収入が非課税になる予定。また、現在は税金が課せられる収益事業は33業種に限られ、限定列挙となっているが、これについては、収益事業の範囲を拡大し、民間企業と競合するような事業はすべて課税対象となる可能性が高い。

4.改革後の法人格のあり方

第3者機関で認められた公益性のある非営利法人は、今のところ比較的簡単に設立できるNPO法人に比べると、2階に這い上がるために相当ハードは要求を満たす必要がありそうだ。

さらに、苦労して這い上がれたとしても、その後その位置を維持するために何年に一度の登録更新を乗り越えなければならず、一切油断はできない。

 また、新しい非営利法人には所轄庁の許認可がないので、誰でも簡単に設立できるというイメージが付きまとうだけでなく、いわゆる怪しい団体が新しい非営利法人を活用して詐欺などを働くことは確実であり、社会的な評価は今までの公益法人に比べるとかなり低下すると予想される。

こうして考えると、今後の法人格は、税制優遇のことだけで考えず、社会的評価や法人格としての価値を最優先すべきであろう。

 そうなると、現在の公益法人はそのまま非営利法人になるのがよいか、NPO法にしたほうがよいか、究極の選択を迫られることになる。


公益性を認められるには

 (1) 判断主体

 現在の主務官庁から中立的に判断を行うために、内閣に民間有識者からなる委員会を設置し、当該委員会の意見に基づき、一般的な非営利法人について目的、事業等の公益性を判断することとし、事後チェック、不服申立ての処理等を含め、業務を的確かつ迅速に遂行できるよう、必要な事務体制の整備を図るとともに、様々な活動分野における公益性を専門的見地から適切に判断できる措置を検討する。

 また、一定の地域を拠点として活動する非営利法人に関しては、原則として都道府県知事において判断等を行うこととする。その際、都道府県に国に準じた機能を有する体制を整備し、国との間で公益性の判断等の取扱いについて整合を図る。

(2) 判断要件

 判断要件については、現行の「公益法人の設立許可及び指導監督基準」(平成8年9月20日閣議決定。以下「指導監督基準」という。)等を踏まえつつ、法人の目的、事業及び規律の面から、できる限り裁量の余地の少ない明確なものとする。

 公益性を有する非営利法人(以下(2)及び(3)において「法人」という。)の目的については、積極的に不特定多数者の利益の実現を図ることを基本とし、共益は従たる目的となる範囲内で認められる方向で検討する。

 法人の事業については、公益的事業の規模は法人の事業の過半を占めること、付随的に収益を目的として行う収益的事業の利益は原則として公益的事業のために使用されること、公益的事業が営利企業の行う活動を阻害しないことなど所要の要件を設け、具体的な公益的事業を適切に規定する方向で検討する。

 法人の規律については、同一親族等が理事及び評議員に占める割合を制限すること、解散した法人の残余財産の帰属者を他の類似の公益目的の法人や国・地方公共団体等一定の範囲に限ること、将来の公益的事業の実施に必要な範囲を超えた過大な資金等が留保されないこと、株式保有等を資産運用等の場合を除き原則として禁止することなど所要の要件を設ける方向で検討する。

(3) 適正運営確保の方策

 法人については、理事会及び監事を必置機関とするなど適切なガバナンスを求めることとする。

 また、プライバシーの保護等に留意しつつ、法人の組織、運営等について、インターネットの活用も含め、国民一般に対する情報開示の強化を図る。開示事項については、現行の指導監督基準による業務及び財務等に関する事項のほか、公益性の判断要件に係る事項、その他役員報酬に関する事項、管理費の水準等法人の適正運営を確保する観点から開示が望ましい事項とする方向で検討する。また、判断主体においても、法人が開示している情報を集約し、インターネットも活用しつつ、国民一般に分かりやすく開示することとする。

 さらに、事業報告書等の定期的な提出、報告徴収・立入検査、命令、公益性判断の取消し等必要な監督上の措置を、より明確な要件の下で判断主体が適切に講ずる方向で検討する。また、判断主体が、一定期間ごとに法人の活動実績を踏まえて公益性の有無を確認することとする。



非営利法人総合研究所

戻る